街の活性化に頑張っている方々と 永井まさととの対談を連載でご紹介する「ザ・対談」です。 様々なジャンルをインタビューしますのでお楽しみに。
永井 先生とは地元の医療・介護・福祉と、高齢者の安全安心な生活から子供たちの育ちに至るまで、街ぐるみで取り組んでいくための拠点づくりについてお話しさせていただいています。私はメディカルタウン鴨居構想と名付けていますが、こうした取り組みには、地元にお住いの方が応援してくれるものを作り上げなければ今後推進できないと思っています。そこで、在宅の診療や看取りについて、改めて先生からお話しをお伺いし、福祉拠点の必要性を多くの方に知っていただきたいと思い、今回対談をお願いしました。よろしくお願いします。
磯崎 よろしくお願いします。
永井 先生は在宅医療・在宅看取りについて精力的に取り組まれています。在宅での看取りは増加傾向だと思いますが、状況を教えてください。
(参考)
〔寄稿〕 神奈川県横須賀市の地域連携(磯崎哲男) – 医学書院
磯崎 そうですね。2017年は少し減ったのですが2015年、2016年は200名を超えていましたので、多くはなってきていると感じます。
永井 200人を超えているんですね。200人を看る体制は1人ではできないですよね。
磯崎 はい。私の診療所ではドクターの常勤が14人くらいいるのと、パートタイムの先生が24名来ていただいています。夜中の体制も横須賀だけではなく、並木、栄区の診療所を5名の先生にお手伝い頂いています。また、活動には看護師の方も大事で37名程お手伝い頂いていて、電話相談から自宅訪問まで分担して行っています。
永井 実際のところは三浦半島全域を担っているのですね。
磯崎 横須賀の北部以外はカバーできていると思います。丁別人口で見てみると86%くらいはカバーできていると思います。
永井 86%ですか。かなりの数を看て頂いているのですね。その数字を一診療所だけではなかなか難しいのではないのでしょうか。
磯崎 はい。一人の診療所では難しく、多数の先生がいる診療所ではないと続かないと思います。僕は10年間1人で行っていたのですが、やはりこの規模を看るとなると難しくなってきました。その時に新しい先生が来て頂いてご助力を頂き助かったという経験もしました。
永井 そうなんですね。僕も政治の世界に入るときに地域医療ということをすごく考えました。大病院や地元の診療所がある中で、小磯診療所の場合は色々な診療科がありますが診療所の位置づけとしてはどのようにお考えですか。
磯崎 元々は鴨居に開業したので田舎の診療所でいいかなと思っていました。ですがここにいても横浜や東京のレベルの医療を提供したいということを考えた時に高度な専門知識が必要になってきます。自分で全部やるという先生もいますが、専門の先生が来て頂いたほうがいいと考えたところ最初に皮膚科の先生が来院いただき、その後小児科、内科専門医の先生が来てくれたので様々な医療を提供できるようになりました。コンセプトとしては病院の外来機能を取り出したような診療所にしたいと思っています。
永井 とてもいいお考えですね。先生から6年前にバーチャル病院構想というものを聞かせて頂きました。当時の構想に近づいてきていると感じますがいかがですか?
磯崎 そうですね。病院は高度な医療を提供する場所ですが、そこまで高度な医療を必要としない人が療養するならば自宅のほうがいいと感じます。自宅の方が医療費が安いですし、自宅での生活を維持することに重きをおくなら、自宅での医療体制で対応できると思います。また、やればやるほど思うのですが、大事なのは介護職の方だと感じます。僕たちは具合が悪い時だけ看る仕事ですが、介護の方は普段の生活をみる形になります。なので、往診している看護師と連携し日常生活の情報収集をしながら在宅医療を行っています。長く継続してやってきていることもあり、協力頂いている看護師も慣れてきたことにより、訪問診療・訪問看護で多くの患者さんをみているので、僕たち医者は判断がしやすくなり、多くの患者さんの在宅療養を行えます。
永井 そうなんですね。先生が運営していく中で働いている方たちも慣れてきたという感じですね。今、磯崎先生をはじめ、地元の町内会、幼稚園、金融機関、また東京海洋大学や企業などの生活支援に関する研究開発を行なっているセクターの方々を交えて地域に福祉拠点を作っていこうということで会合を重ねています。私はメディカルタウン鴨居構想と呼ばせてもらっていますが、先生から見て、こうした拠点の必要性をどのようにお考えでしょうか。
磯崎 成功事例として実際に見に行ったのですが、帯広の中学校の跡地に福祉、介護、障害者の施設が集まっていて、そこに地域がコミットし、うまく回っているところがあります。また皆が集まりやすいところでやっているというところがよく、活性化が進んでいます。人が集まると食堂もできるし、元が学校なので音楽室、会議室、講堂等もあるので目的別に使用して違うメリットが出てくると思います。
永井 医療や介護を必要とする人だけではなく、地域の人たちが自然と目的を持って集まってくるような場所にすると活性化に繋がるんですね。
磯崎 そこの場所は介護・福祉の拠点で活動されていたので、まだ医療は入っていなかったんですけど、そのような成功例をみると拠点を作るのは大事だなと思っています。
永井 そうなんですね。私は磯崎先生の協力の元、医療の視点を入れて作る拠点として、他にはない例を作れるのではないかと考えています。さらに地域の方から賛同の声が多く出ればよりよいものができると思います。先生は地域の方との協力について、どのようにお考えですか。
磯崎 僕たちは医療なので介護・福祉のことはできないので自分たちができることをバックアップできればいいなと思います。例えば、かもめ団地では学力の低い子たちを対象に無料で学習塾をやっていますが、地域の未来への資金のバックアップなどもできればいいなと思っています。また人が集まれば地域の困りごとなどを聞き出すことができ、問題の解決策にも繋がること、地域の人口減少が止まるのではないかと考えています。そうしたことも、地域の方々の協力がなければ実現できないことだと思います。
永井 そうした活動を皆で一緒にできれば地域の利便性が上がり、地域の魅力向上に繋がりますね。地域の方々、地域の診療所が互いに協力し合うという一つの形ができそうですね。
磯崎 鴨居は自然が豊かで気候もよく、もっと人が集まってもいいのかなと思います。さらに鴨居に社会的なインフラが整えばこのような地で余生を暮らしたいと思う方が増え、東京や横浜に住んでいるより安全で安心な暮らしができればうれしいなと思います。
永井 私もそう思います。超高齢社会を迎え、多死化社会の到来と言われていますが、今後の医療機関の動き方、地域の動き方はどのように変化すると思いますか。
磯崎 少なくとも横須賀の東京湾側では在宅医療で困ることはないのではと思います。先生方の協力もあり、ポテンシャルが高いので自宅で亡くなりたいという患者さんが大幅に増えない限りは今のところ大丈夫かなと思います。ただ、地域住民側の意識の変革も必要と思います。何かあったら病院に行くという方々が多いので、そうではなく、かかりつけ医を持って相談しながら緊急時以外は病院に行かないで済むような考え方、概念を知ってもらわなければいけないなと思います。
永井 かかりつけ医の方がいますかと尋ねた時に、いますよと言えるような感じにならなければいけないということですね。
磯崎 そうですね。今は総合病院に行っても全身を看てもらえるわけでもないと思いますので、例えば脳に問題があるのであれば脳のことだけを診てもらい、風邪等の普段の病気は地域の診療所で解決してもらい、あまり負担をかけすぎないようにしていけば医療費の削減もできるのではないかと思います。
永井 お話を聞いていると、これから先生はさらに忙しくなっていくと思いますが、お休みなどはしっかりとられているのですか。
磯崎 時間の配分は自由なのでそこそこはとれています。休みの日に自転車に乗ったりして体力を落とさないように気を使っています。
永井 走水、鴨居、浦賀、久里浜などは海岸沿いになるので景色もよく気持ちよくサイクリング、ウォーキングができると思います。また、そのような運動をすることによって健康に暮らせるので、とてもいい地域だと思っています。磯崎先生をはじめ、地域の医療に向き合って頂いている方々やプロジェクトに参加されている大学の先生方、地域の方々と連携が取れて一緒にやっていければ住みやすい街が具体的に見えてくるのではないかなと思います。
磯崎 そうですね。僕たちのように各種の専門家は、プラットフォーム(地域医療の仕組み等)を作ることはできても、地域の方たちが参加して頂かないと回っていかないと思っています。やはり、地域の方たちに理解して頂き、協力してもらうことが必要だと思います。また仕事での定年は65歳だと思いますが、地域の活動の定年はないと思っています。ボランティア等で地域のことをやってもらうということを認識してもらい、僕たちがプラットフォームを作りますので、地域の方たちの協力でうまく回せると思っています。
永井 そうですね。私の周りの人たちも元気な方がとても多いです。元気でいれば活躍ができるということをより多くの地域の方々に理解してもらいつつ、医療・介護・福祉の専門家の方々と一緒に地域医療の仕組み作りをしていけたらと私も思っています。そして、そうした仕組みが実現できたら、安全で安心な地域のモデルとして広くアピールできるんじゃないかと考えています。先生や地域の方々と、こうした取組をこれからも続けていき、具体化に向けて努力していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
磯崎 ありがとうございました。